消費税減税の議論の迷走~理想的な国民生活支援策とは(コラム#060)
2年間の時限的な消費税減税については、この半年間の様々な議論の中でも明らかにされてきた通り、かなりの「悪手」である。政府としては、「公約の完遂」というメンツにこだわるのではなく、物価高や財政状況、社会経済構造に照らして、より合理的で理想的な「生活支援策」を、もっと早期に打ち出すべきであった。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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高市早苗首相は、食料品の消費税率を来年4月から2年間限定で1%に引き下げる方針を正式表明した。与党内部からも、そもそも消費税減税について公然と反対の声も上がっているので、先行きは依然不透明であるが、首相としては、選挙時の「公約」を守るべく、この案をベースに強行突破しようとする構えであろう。今後は、自民党内の議論を8月上旬までに纏め、政府が閣議決定を経て、臨時国会に関連法案を提出することが見込まれている。

消費税減税については、先の衆議院選挙で自民・維新の連立与党が大勝し、高市首相が「悲願」として掲げた「食料品の消費税率2年間限定0%」という公約がすんなり実現するかと思いきや、その後の議論については、ここ半年、迷走を続けてきた。
(1)迷走の果てに浮上した「1%案」という妥協
まずは、実務的なハードルがあった。レジ・システムの改修については、0%への変更にはプログラムの根本改修が必要で、1年程度かかるということで、公約の早期実現が難しくなった。
こうした中、「税率を1%に引き下げるのであれば、3〜6ヶ月でシステム対応可能」というレジ・メーカー等の指摘もあって、社会保障国民会議の小野寺五典議長からは、「食料品の税率を2027年4月から2年間1%に引き下げ、残る1%分(約6000億円)を別途現金給付する」という「実質ゼロ」案が打ち出されたところである。

(2)野党の不可解な反対姿勢
選挙後の野党の動向も不可解であった。衆院選の時点では、各党(チームみらいの党を除く)は、こぞって消費税減税や食料品ゼロを公約に掲げていたはずである。それにもかかわらず、いざ超党派の国民会議で具体的な議論が始まると、多くの野党が「つなぎとしての意味合いに疑問がある」「給付の方が迅速だ」「財源が不透明」などと難癖をつけ、強く反対している。
選挙のときには、与党とよく似たポピュリズム的な主張をしてきたことを棚に上げて、最近は政府・与党の足を引っ張ることが目的化していたのではないか、との疑念を禁じ得ない。

(3)議論の迷走から透けて見える「理想的な支援策」の条件
それはそうとして、ここ半年間の議論の迷走を振り返ると、反対派や消極派の主張からは、本来あるべき「生活支援策」の条件が逆説的に浮かび上がってくる。それは以下の6点に集約される。
1)実施時期:支援策の即効性
減税実施までにあまりにも時間がかかるのは、適切ではない。それくらいなら、本当に困っている層に、(現金給付など)より早く支援の手が届く手段を優先すべきである。
2)政策効果:確実な物価引き下げ・生活支援効果
過去の海外事例を見ても、消費税率の引下げ分がそのまま小売価格に反映される保証はない。便乗値上げや企業の利益吸収によって、生活支援を目的とした政策の効果が減殺されるリスクがある。

3)市場の信頼:財源の裏付けと市場の信認
数兆円にも上る財源をどうするかが不透明なまま、減税方針だけを先行させてしまうと、市場からの疑念を招き、長期金利の急騰やさらなる円安(日本版トラス・ショック)を引き起こす危険性が高い。それは、かえって物価上昇を招くことになる。
また、社会保障等の充実のために、広く浅く徴収している消費税という基幹税を(時限的・部分的であれ)弱体化させることは、社会保障制度の安定性を確保する見地から適切ではない。
4)実務対応:行政・事業者の対応負担の少なさ
たった2年間の時限的な減税のために、多額の費用をかけてレジ・システムや会計ソフトを改修させることは、事業者にとって負担が重すぎる。また、自治体の事務負担も膨大になる。もっと、経済界や行政にとって対応コストの低い支援策をとるべきである。

5)可逆性:時限性の確保の可能性
日本社会の実状に照らすと、一度下げた消費税率を元に戻すことは、極めて政治的困難を伴うことが見込まれる。2年後に元の税率に戻そうとしても、それは「大増税」だとして政局化してしまうことが目に見えている。
また、そこで税率を戻すことが出来た場合にも、駆け込み需要等、経済活動に大きな歪みをもたらすことは間違いない。
6)公平性:所得再分配策等としての適切性
消費税自体は逆進性があることから、消費税の税率を下げることは、一見すると、低所得者への生活支援策になるようにみえる。しかし、減税すれば、より多くの消費を行う高所得者や豊かな金融資産を持つ層まで、絶対額として恩恵を多く受けることになり、実質的には、各層へのバラマキとなってしまう。中低所得層に対して重点的に支援するような、違う支援策が望ましい。
また、減税対象とする品目のカバレッジ次第ではあるが、外食産業が相対的に不利になる。

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これらの様々な指摘は、「反対のための反対」として打ち出されているという側面もあるが、政府が固執する「2年間限定の消費税減税案」が抱える本質的な欠陥を鋭く突いている。
選挙で大勝したからといって、その公約が常に正義であり、また、政策としての合理性を持つとは限らない。ここ半年の議論で明らかになったのは、消費税率の時限的な引下げという手法そのものが、今の日本が直面する物価高や財政状況、社会経済構造に照らして、かなりの「悪手」ではないか、ということである。

政府としては、「公約の完遂」というメンツにこだわるのではなく、上記6つの視点を踏まえた、より合理的で理想的な「生活支援策」を、しかも、もっと早期に打ち出すべきであったといえる。
例えば、もし、本気で物価対策や生活支援策を急ぐのであれば、低所得層等ターゲットを絞った現金給付だけをシンプルに先行させるべきであった。そして、(今回の物価高の主因の一つでもある)円安是正を進めつつ、実質賃上げを積極的に慫慂し、(2029年春からの導入に向けて議論されている)税額控除付給付金制度をどうやったら一日も早く実現していくかに、全精力を注ぐのが望まれた。
それらは「最善手」とまでは言えないまでも、「悪手」をこのまま進めることよりは、よほどましな対応であったろう。





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