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消費税減税策はなぜ人気なのか~ポピュリズムの「毒饅頭」(コラム#054)

 衆議院選挙を控えて「消費税率引き下げ」の大合唱となっているが、これは、(1)消費税は、毎日目に触れる税であることから、現役世代を含め「痛税感」がそもそも強いこと、(2)税率引き下げは、「物価高対策」として分かりやすいこと、(3)「逆進性」に苦労している、低所得者層に訴えやすいこと、(4)高齢者にもアピールしやすいこと、などが理由と考えられる。消費税減税は、一見魅力的な施策にみえるが、これを安易に進めれば、財政危機を招く、あるいは将来の世代にツケを回す、甘い「毒饅頭」になることは間違いない。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)



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 現在、衆議院選挙を目前に控え、日本の政治状況は異例の様相を呈している。共産党、れいわ新選組はもちろんのこと、ついには、自民党や維新の会といった与党までを含め、主要政党のほとんどが「消費税減税」や「食料品の消費税ゼロ」を公約の柱に据えている。


 この消費税率引き下げの大合唱は、ポピュリズムの産物で、有権者の目先の利益に訴えかける「集票の技術」に他ならない。今の経済社会情勢の下で消費税率を引き下げることは、社会保障の維持・財政運営の観点からみて、愚策であることはいうまでもない。



 そうした中、本稿では、「では、なぜこれほどまでに消費税は人気がないのか」、「『消費税率引下げを訴えれば、選挙民に支持される』と、なぜ政治家は考えるのか」に焦点を当ててみたい。

(「なぜ消費税率引き下げは愚策なのか」についても、論じるべきことがもちろん沢山あるが、一旦脇に置くこととする。)


1. 際立つ「痛税感」


 消費税は、わが国では非常に不人気な税である。

 これほどまでに嫌われる最大の理由は、買い物のたびに、税金を払っているという実感を強烈に抱かせる「痛税感」にある。消費税は、レジを通るたびに「値札に上乗せされた金額」として、明確に意識されるものとなっている。


 特に日本においては、(1)所得税・社会保険料の方は、多くの現役サラリーマンであれば給与から「天引き(源泉徴収)」されるため、負担が見えにくい(最近でこそ、社会保険料等の負担の重さについて怨嗟の声が出てきているが…)。


(2)一方、消費税の方は、(販売側が、売価を低くみせたいため)「税込み表示」ではなく、「税抜き表示(外税方式)」にすることが長らく一般的であったことが、一般市民に「税金を(余計に)取られている」という心理的な負担を定着させる一因となった。


 そして、消費税は、利益が出ていない(=法人税を納めていない)赤字の中小企業や零細事業者も納入義務がある。このため、経営を圧迫するイメージが強い。



2.物価高対策としての「わかりやすさ」

 そして、今回の局面で「消費税率の引下げ」が公約として注目されている理由は、「物価対策」としての論理の単純さにある。


 現在、国民が解決してほしいのは物価高である。そして、「消費税率を下げれば、消費者が買い物の際に直接払うお金が減る!」という構図は、誰にでも理解できる。メリットがどのくらいかも、すぐにに計算出来る。家計の負担を明確に減らせるという主張は、有権者に対して直感的な説得力を持ってしまうのである。



3. 低所得者層への「減税」アピール

 消費税率の引き下げは、低所得者層へのアピール力も大きい。 低所得世帯の多くは、もともと所得税を納めていないか、納めていても少額である。そのため、所得税を減らしても、その恩恵を受けることができない。一方、消費税は、所得の低い人ほど収入に占める生活費(消費)の割合が高くなるため、その負担は相対的に重くなる(「逆進性」)。


 低所得者にとっては、消費すれば必ず発生する消費税こそが、自分の税負担を追加軽減できる有力な対象となる。政治側から見れば、「所得税減税では票にならない層」を取り込むために、消費税減税は極めて魅力的な施策となるのである。



4. 大多数の高齢者への「減税」アピール

 消費税減税の人気には、「シルバー民主主義」の影響も色濃く反映されている。


 日本の選挙において最大のボリュームゾーンであり、かつ高い投票率を誇るのが高齢者層であるが、高齢者の多くはすでに資産形成を終え、年金や貯蓄の取り崩しで生活している。彼らにとって、現役世代の負担を減らす「所得税減税」や「社会保険料の軽減」は、自分たちの利益には直結しない(むしろ、社会保険料の軽減は、自分たちが受ける医療・介護サービスの質の低下に繋がる恐れすらある)。


 一方、毎日の買い物で発生する消費税率の引下げは、リタイア後の高齢者であっても即座にメリットを実感できる。これは、年金に主に頼る高齢者層ばかりでなく、多額の資産を有して生活に余裕のある高齢者も賛成したくなる施策となる。



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 このように「消費税率引き下げ」という公約は、「減税を実感しやすい」「物価対策としてわかりやすい」「低所得者や高齢者にアピールできる」という三拍子が揃った、恰好の集票ツールとなっているのである。


 これまでの選挙であれば、野党の一部が「消費税減税」を強硬に訴えることがあっても、責任与党としては、社会保障制度などを支えている安定財源をなくすことは出来ない、との姿勢を堅持していた。しかし、ここまでポピュリズムの勢いが増すとなると、そうも言っていられないのであろうか、与党までが減税を言い出す世の中になってしまった(注)。


(注)ただ、現時点での高市首相・自民党の言い方は微妙である。「食品を対象」「2年間の時限性」を持つ減税について、「検討を『加速』する」「(選挙後の)国民会議で『議論の上で決定』する」としている。

 つまり、選挙で大敗しては元も子もないので、「消費税率引き下げ派」に転じたように見せているのであろう。本音では、選挙で与党が安定多数等になれば、この公約は反故にする可能性が高い。すなわち、「検討を加速した」末に、「外食業者にとって痛手が大きすぎる」「零細企業・個人事業主等では、益税という既得権を失う」「各種の仕入れシステムの対応には、時間・費用がやはり相当かかる」といった諸々の理由から、導入を見送ることは十分考えられる。


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 (1)本来、「物価高」に対しては、円安の是正や実質賃金の引上げの方が重要な施策となるはずである。また、(2)消費税の「逆進性」等の問題については、本当に支援を必要とする層に絞って対策をとれるように、早期に「給付付税額控除」制度を導入すべきである。そして、(3)所得税・社会保険料の負担にあえぐ現役世代にとっては、(幅広い層から集められる)消費税の税率引き下げは、却って自分たちの首を絞めるものになりかねない、ということを正しく理解してもらうべきである。


 消費税率を引き下げることは、一見すると、一般国民にとって魅力的な施策にみえる。しかし、財源の裏付けのないかたちでこれを安易に進めれば、財政危機を招く、あるいは将来の世代にツケを回す、甘い「毒饅頭」になることは間違いない。

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