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日銀「物価目標2%達成」の公式認定が意味するもの〜「デフレ脱却」と「デフレーション脱却」〜(コラム#063)

1 日前
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日本銀行は、「基調的な物価上昇率」が目標としていた2%に届いた、との判断を明らかにしたが、これでようやく「低成長(デフレ)」と「物価下落(デフレーション)」とをきちんと峻別した上で、それぞれにふさわしい政策対応がなされる環境が整ったのではないか。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)




(はじめに)

 日本銀行は10月30日に開催した金融政策決定会合において、一時的な変動要因を除く基調的な物価上昇率について、目標とする2%と「おおむね整合的な水準となっている」との判断を明らかにした。2013年1月に2%の「物価安定の目標」を掲げてから13年の歳月を経て、日銀自身が目標達成を公式に認定したことは、今後の金融政策と日本経済の議論において極めて大きな節目となる。


 今回の公式表明が持つ意味や意義について、筆者なりの視点で整理してみたい。


1. 歴史:日本銀行の役割と、「デフレ」&「デフレーション」対策

 物価の番人である日本銀行は、「物価が安定している」経済環境を作ることが主な仕事である。そういう環境整備を通じて、経済全体としては、その実力にあった経済成長を持続的に続けられることになる。


 石油ショックの頃には、インフレ退治が重要な仕事であった。一方、バブル経済崩壊後には、わが国では、「デフレーション」(物価水準が継続的に下落すること)で、経済が悪循環に陥るようなリスクさえも生まれた。こうしたことから、日本銀行としては、そこから四半世紀は、「デフレーション」から脱却することが主な仕事となった。

 

 なお、金融緩和策は、世の中の金利水準全体を引き下げることによって、将来の需要の前倒しを促す政策(「需要の先食い」)である。不況時の落ち込みを和らげる一時的な経済安定を図る際には、「一段の金融緩和を進めること」はそれなりに有効ではあるが、近年は、政策金利はその下限となるゼロ近傍に張り付いていたことから、そうした力さえも殆どなかった。

 

 

 世の中で、中央銀行はいまだに過大な期待をされている印象があるが、金融政策は、そもそも、経済全体の「潜在成長率そのもの」を恒常的に引き上げるようなものではない。元々の潜在成長率が随分高かった高度成長期などには、金融緩和をする(経済の「ブレーキ」を若干緩める)と、実質成長率があたかも上がったようにみえたので、そうした効果をもたらしたようにみえたのかもしれない。しかし、潜在成長率が低くなっている昨今では、いくら極端な金融緩和をしても、経済はその実力以上に成長するはずもないのである。


 構造的な「低成長」(わが国ではしばしば「デフレ」と呼ばれている)」と「デフレーション(継続的な物価下落)」とは、呼び名は似ているが、本来、別ものである。したがって、別の対策をとる必要がある。



 しかし、歴代政権や一部の論者は、その二つを意図的に混同させてきた節がある。


 すなわち、政府は、日本経済の長期的な停滞が続く中で、低成長(「デフレ」)の原因を「金融緩和が不十分であるため」「日銀の努力が足りない」と主張し、日本銀行による追加的な政策対応を強く促してきた。おそらくは、そうすれば、「潜在成長率が上がっていないこと」(「デフレ」)についての政府の責任――構造改革が進まないことや、成長戦略が上手くいかないこと――から世間の目をそらすことが出来たからであろう。


 日銀側も、物価上昇(「デフレーション」からの脱却)がなかなか実現しなかったために、政権や世間からの「日銀がサボっている」という批判に対し、真っ向から反論できずにいた部分がある。唯々諾々とではないにせよ、政府等の批判にこたえる格好で、何らかの追加的金融緩和策を出してきた。



 そうした中で出てきたのが、近年の「異次元緩和(マイナス金利政策等)」を含む極端な金融緩和策である。「物価上昇率2%※」を目標として、それが実現するまでは、非伝統的な金融緩和策を続ける、というコミットメントであった。


※「物価」を何で測るのが適切であるのかは、非常に難しい。一般市民は、米価やガソリン価格の変化などで、物価の変化を「体感」するが、日本銀行では、一時の振れに左右されない「基調的な」物価上昇率をみていくこととしている。

 なお、「2%」という数字は、「デフレーション」を再発させずに済むように、「0%」ちょうどではなくて、「のりしろ」として2%ポイントを加味したものである。いわば「デフレーション」に対して相応の「安全圏」に入っていることを示したものといえる。


 

 こうして、構図的にみると、(1)政府側からすれば「デフレ」から脱却していないから、(2)日本銀行側としては「デフレーション」から脱却していないという判断から、つい数年前まで、こうした尋常でない金融緩和策が長年にわたってとられ続けてきた、とみることができる。


2. 転換:「デフレ」&「インフレーション」対策

 

 しかし、ここ数年で大きく経済情勢は変わった。気がつけば、世の中はすっかり「インフレーション」(物価水準が継続的に上昇すること)の時代になっている。


 よく知られているように、物価上昇のきっかけは、ウクライナ情勢や原油高、世界的なインフレ圧力、さらには円安に伴う輸入コストの急上昇といった供給側の理由(コスト・プッシュ)にあった※。経済の拡大や持続的な実質賃金の上昇を伴う「良い物価上昇」ではなく、個人消費を抑制し家計に大きな負担を強いる「悪いインフレ」であった。


※ここ数年の急速な物価上昇は、「ゼロ金利政策」等に代表される、これまでの日本銀行の極端な金融緩和策が奏効した結果ではないという点は、留意すべきである。



 


 これを受け、日本銀行も、2024年3月に政策転換し、そこからは政策金利をゼロ金利近傍から引き上げてきた。そして、今回は「基調的な物価上昇率が目標に達した」との判断も出した。これは、中央銀行の目からみて、さすがに「デフレーション」からは脱却した、すぐに「デフレーション」に陥るようなリスクはなくなった、ということを公式に宣言した、ということである。


 政府の方は、いまだに「『デフレ』から脱却した」とは宣言していない。しかし、巨額の「ガソリン補助金」等で、一所懸命、家計の補助をしようとしているのだから、「インフレーション」に対応しないといけないことは認めていることになる※。


※野党からは、「物価高騰対策をしながら、デフレ脱却宣言ができないのはおかしい」との批判も聞かれている。さすがの高市首相も、「『物価の持続的下落』という意味でのデフレの状況ではないと考えている」「経済学的に、『物価上昇』それ自体をインフレと呼ぶのであれば、今はインフレの状況にある」と発言している。



3.今後の展望


 日本銀行は、物価上昇率で目標としてきた「2%」に達したことを、今回、公式に宣言した。ようやく、政府が続けたがるような「『デフレ』脱却のための金融緩和」を意識することなく、「物価上振れリスクを意識しながら、金利機能を活かして金融政策を遂行する」という、正常な政策運営を進める基盤が整ったと言える。


 一方、政府側は、日本銀行に過剰な金融緩和を続けさせる論拠を失ったことになる。これでやっと、官民一体となって潜在成長力を引き上げるための施策に、真正面から向き合わざるを得なくなったのではないか。既に発表されている、政権の成長戦略等が真に効果を発揮することを期待したい。

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