人口減少と定住外国人の増加~日本社会の準備は出来ているか(コラム#023)
- 竹本 治
- 2023年6月25日
- 読了時間: 3分
人口減少問題への処方箋として、移民や定住外国人を沢山受け容れるべき、という議論がある。そして、50年後には定住外国人は総人口の1割にもなると予測されている。定住外国人を増やすことは理にかなっているが、その増加スピードは相当になることから、多くの外国人を円滑に迎え入れる準備を急ぐべきである。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

日本の人口減少問題が深刻化していることは、最近あちこちで取り上げられている。今年4月には、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が新しい将来人口推計を出したが、それによれば、約50年後の2070年には総人口は8,700万人にまで減る。コロナの影響で、年間の出生数が一段と減って、ついに2022年には80万人割れとなったというニュースも記憶に新しい。
日本の人口が早晩1億人割れになるといったこと自体は、全く新しい情報ではないが、注目すべきは、この8,700万人という予測値は、外国人が1割、1,000万人になることを前提にしている点である。現在、総人口の2%程度に過ぎない外国人定住者が、これまでとは全然違うハイペースで増えることは、もっと重視されるべきであろう。

(国立社会保障・人口問題研究所の発表データに基づき、筆者作成)
労働力不足の処方箋の一つとして、定住外国人を増やそうとすることは理にかなっている。トレンドとして、おそらくは後戻りはしないであろう。評判の著しく良くなかった技能実習制度も、ようやく見直しが図られ、企業内での人材育成や人材定着に向けて、制度改革が進められることになった。
一方、これは労働市場の話だけではなくて、日常生活のあらゆるところで、色々なバックグラウンドを持つ人との接点が急激に増える、ということを意味する。50年後には、人口の1割が外国人になるのである。日本社会には、その覚悟があるのか。その準備は間に合うのか。

ちなみに、米国では、移民が総人口の15%近くになるという。よく知られているように、米国はそもそも多民族・多文化が入り混じった社会である。そうした社会でさえも、近年移民が急速に増加することで色々な社会課題が生まれている。
ドイツでは、移民とその子孫は総人口の2割を超えるまでになった。2005年に施行された「新移民法」で、移民はドイツ語を600時間学習したり、法律や歴史なども学んだりすることが義務付けられ、これによって一段と「市民統合」もすすめられた。それでも社会の軋轢の絶えない部分もある。
こうした他国の動きや苦労を、日本はどのように受け止め、そこから何を学ぶべきなのか。

勤務先はもちろんのこと、顧客としても定住外国人が著しく増えることになる。日本の雇用システムや従業員は、それにうまく対応できるのか。社会保障制度はどうするのか。地域コミュニティはうまく受け止められるのか。子女の初等教育や地域医療を含めて、定住外国人が不安なく暮らせるように、社会を変革出来るのか。
いずれも簡単ではない。しかし、日本社会が進むべき大きな方向性は見えている。既存の制度のままではうまくいかないことも明らかである。日本社会のグローバル化はもう始まっている。急いで対応しないと、人々の軋轢や社会の混乱は増えるばかりであろう。

したがって、全体最適が実現できるように、新たな政策パッケージを急いで作っていかなくてはいけない。異なる専門分野を持った関係者の知恵を集めてグランド・デザインを描くとともに、住民・市民も、当事者意識をもって議論に積極的に参画する必要がある。
(筆者は、現実には、定住外国人の数は、社人研の推計値よりも相当下振れするとはみている。その分、人口減少問題の方は、もっと深刻になると考えられるが、それは別の機会に論じることとしたい。)
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