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「令和の米騒動」~これからの米作のあり方を考える~(コラム#043)

 今回の「令和の米騒動」の目先の混乱は、備蓄米の放出によって一定程度解決する可能性があるが、これを契機に、生産性の低い多数の零細農家の保護策――国内市場を非常に閉鎖的なものにして、その中で人為的に需給調整をしてきた政策――を抜本的に見直し、国際的にみても競争力の高い米作産業に変えていくべきである。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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 米価は一年前と比べて、7割程度上がったが、政府は今月になってようやく、米価の高騰解消に向け、備蓄米を放出することを決めた。


 まず、ここまでの経緯を簡単に振り返ってみたい。


 新型コロナの頃には外食控えからコメは余ったが、その後、インバウンド需要の増加等の影響からか、昨夏には店頭からコメがなくなる「令和の米騒動」が発生した。政府は、これは一時的なものであり、2024年の新米が出回れば不足は解消するとして静観していたが、一種の「仮需」(事業者によるコメの在庫確保の動き)が発生したこともあってか、一段と不足感や先高感が強まって、その後も店頭価格はどんどん上がっていった。


 さすがに、消費者からの強い声に押されるかたちで、政府も対応方針を見直し、「備蓄米」(平成5年(1993年)の記録的な冷夏に起因するコメ不足(「平成の米騒動」)を契機に作られた仕組み。不作時などの緊急時に放出する)を、今回の「流通の目詰まり」という事態に対処する目的で、21万トン放出することを決めた。放出米によって価格がどこまで下がるかは不透明であるが、先高感は薄れているようである。



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 このように、目先の需給逼迫の緩和のための対策は、遅まきながらとられつつあるといえる。しかし、これでコメ問題は解決した、と考えるべきではなく、今回の件をきっかけに、米作を巡る政策を抜本的に見直すための議論を深めていくべきであろう。


 米作については、よく知られているように、①国内の米価は高い、②このため、輸入米については高い関税を課しており、外国産米はごく一部だけが輸入されている。③減反政策は廃止されたといっても、色々な生産調整が事実上続けられていて、政府主導で相当程度需給調整がなされている。④その一方で、日本の食料自給率は非常に低いままとなっている。


 今回の「令和の米騒動」をみると、その根本的な原因は、生産性の低い多数の零細農家を過剰に保護するため、国内市場を非常に閉鎖的なものにして、その中で人為的に需給調整をしてきた政策をとってきたことにあるといえる。




 零細農家の生産性は低いので、生産コストは当然高くなる。これらの農家が暮らせるようにしていくためには、国内米価を高く設定する必要がある。政府はまさにそのようにしてきた。輸入米には非常に高い関税をかけて、国内市場に出回らないようにした。価格競争力がない中で、輸出を奨励することには消極的であった。一方、コメの国内需要は年々減ってきていることから、減反など、補助金を多額に投入してコメの生産量を徐々に減らして、需給が緩まないようにしてきた。


 しかし、国内の需給は予想通りにはいかないことはままある。そうした中、輸出・輸入や生産者自身による生産量の調整といった調節弁の少ない現行制度では、強い過剰感や不足感が生まれやすい。今回の騒動も、根本的な原因はそこにあるとみてよい。


 与党の「票田確保」のために、競争力の低い零細農家を保護する政策を長年にわたりとってきたことのツケは大きい。


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 幸いにして、といっていいであろう、最近では、米作に従事する農家は高齢化し、引退する人も相当増えている。今こそ、農業政策・産業構造を大きく変えていくチャンスである。最近の国際情勢や気候変動等をも勘案すれば、経済安保・食糧安保の観点から国内農業を振興していくことは待ったなしである。


 では、具体的にはどうすべきか。

 

 門外漢であるので、かなりざっくりしたイメージしか提示できないが、筆者なりの考えを紹介したい。


(1)農地の集約と、農家の大規模化・農業法人化


 大規模農家では、コメの生産コストは零細農家の半分になると言われている。近年は、引退した近隣の農家の農地を借り受けることなどによって、農地の事実上の集約化、農家経営の大規模化が徐々に進んできてはいるが、農業法人化を含め、農家の大規模化を思い切って推し進めるようにして、日本全体として米作の生産性を上げるべきである。


 こうした対策は、減反政策によって休耕地化して久しい土地を復活させることも併せ、国土の荒廃を押しとどめることにも資する。




(2)生産量の増加と輸出の振興


 そうした生産性の高い大規模農家が主体となっていけば、反収(単位面積あたりの収穫量)も相当上がるので、国内生産量を大幅に増やすことが出来る。国内需給が一旦緩んで、米価は多少下がっても、生産コストの低い経営体は十分やっていけるはずであるし、店頭価格が下がれば、消費者の利益となり、コメの国内需要も一定程度増える。


 米作の価格競争力がつけば、補助金等によって「飼料用」といった用途に振り分けている制約もはずすことが出来、それそれの市場の需給に応じて、生産者が販売先を柔軟に変えていくことが出来るようになる(=特定の市場での需給逼迫が生じにくくなる)。


 同様に、米作の価格競争力がつけば、輸出も積極的に行えるようになる。現行制度のように、補助金をつけて「輸出向け」に限定するといった、米作の用途制限ははずすことが出来る。価格競争力さえあれば、国内市場だけを想定した生産に限定する必要はなくなり、海外需要を含めたより大きな市場を相手に生産するようになる。


 コメの輸出量が増えていけば、計算上も、そして実態としても食料自給率はあがる。また、国内需給逼迫時に国内価格があがれば、業者は輸出に向けていたコメを国内向けに振り替えるので、国内需給も相当程度調整されていくはずである。




(3)輸入の積極化


 さらに、国内農家の生産性があがり、価格競争力がつけば、輸入米が入ってきても競合できるはずである。生産者間の競争から一層生産の効率化が進めば、消費者にとっては一層メリットも増える。

国内米と輸入米との間で、用途の棲み分けが一段となされれば、国内生産はより一層付加価値の高いものにシフトしていくことも出来て、ひいては輸出競争力もあがることになる。




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 このように、米作農家の大規模化を進め、国全体としてのコメの生産性を大幅に上げることができれば、コメを巡る一連の政策は抜本的に変えられる。国内での用途制限の緩和・輸出の積極化・輸入の積極化を推し進めることで、今のように、需給逼迫リスクを無理やり政策的に調整する必要も薄れる。


 こうした対応は、産業政策としても有用であるし、経済安保・食料安保の点からも有効な手立てとなることは間違いない。


 我々消費者は、目先のコメの値上がりに文句を言うばかりではなく、政策当事者の対応に目を光らせ、今後の米作についての抜本的な改善も促すべきであろう。

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