「日本消滅」を招く人口減少~もはや静かな有事ではない(コラム#058)
- 竹本 治

- 5月31日
- 読了時間: 7分
人口減少問題が、もはや明らかに危機的な水準に達している中では、政策の発想を大きく変えて、(1)「未婚の若年世代」を全面的に支援することで、結婚・出産を明白に奨励するとともに、(2)自治体に対しては広域連携だけを支援することで、行政サービスの効率化を促すべきである。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)
***

日本の人口減少は、もはや「静かなる有事」と呼べる段階を通り越して、国の存立を揺るがす深刻な危機へと突入している。
5月29日に総務省が公表した2025年国勢調査の速報結果によれば、昨年10月1日現在の日本の人口は、約1億2,300万人。前回調査(2020年)と比較して300万人の減少(2.5%減)となり、過去最大の減少幅を記録した。
人口の趨勢的な減少は、社会保障制度の持続可能性を揺るがすにとどまらず、経済発展、防衛力、そして地域社会の存続を危うくするものであり、多くの社会課題を引き起こす根源となる。この数字は、日本全土が等しく衰退にむかっている、という過酷な現実を突きつけている。しかしながら、「日本が直面する最大の有事である」という国民的な危機感は依然薄い。

人口減少が、重要な政策課題として語られるようになって久しい。それにもかかわらず、なぜ抜本的な解決から年々遠のいているのか。その背景には、論点が極めて多岐にわたり、総花的な対策に陥りがちであったことがあろう。また、人口減少問題は、数十年単位の息の長い対応を必要とするものである。しかし、政治や行政の現場では、どうしても短期的な成果に繋がりやすい施策が選択されがちであり、根源的な構造改革が先送りされてきたことも遠因となっている。
だが、もはや猶予はない。このままでは、人口減少は一段と加速していく。すぐに手を打たなければ、地方消滅ならぬ、日本消滅を招くことになるだろう。

***
10年前には、民間団体「日本創成会議」が「このままでは全国896の地方自治体が消滅する可能性がある」との独自推計を発表している。「地方消滅」という衝撃が、とくに自治体関係者の間で走ったのは、記憶に新しい。もっとも、そうした刺激的なメッセージを受け、多くの自治体では、生き残りをかけ、他所から人を奪い合う「社会増」の施策に血道を上げてしまった。時の政府も、マクロで見れば、地域間での人口移動はゼロサムに過ぎないのに、それを助長した。政策対応として、これは大変大きな誤りであった。
日本全体の人口減少に歯止めをかけるのは、(大量の移民受け入れを別とすれば)「自然増」による以外に道はない。ただ、どんなに早く自然増を実現できたとしても、人口減少が反転するまでにはこれから数十年を要する。その間の非常に厳しい時期については、人口減少に適応するかたちで、社会制度の再構築も並行的にしていかなければならないのである。
***

折しも、2026年3月には、民間団体である「未来を選択する会議」の政策提言グループが、民間初となる「人口問題白書 2025」ならびに「未来選択・緊急提言―「縦割り」を超えた推進体制をー」を発表した。主な提言内容は、「3つの方針」と「5つの提案」に集約されており、前者では、(1)分野を超えた政策の連携、(2)官民での中長期的な連携、(3)危機に関する国民への発信強化が柱となっている。また、後者では、(1)若年世代への政策サポート強化、(2)労働力不足への対応、(3)低中所得層への支援強化、(4)地域における産業・生活圏の連携、(5)地域それぞれの状況を踏まえた政策連携等を謳っている。
現状分析や提言内容には、強い異論があるわけではない。しかし、メッセージにインパクトを感じなかったのは、筆者ばかりではないようで、記者発表から2か月が経つが、報道も少なく、政治家・行政関係者の反応も鈍い。
このままでは、思い切った政策対応もなされないままに、わが国は、ずるずると人口減少の坂を転がり落ちていくばかりである。
***

本稿では、この人口問題白書の問題提起をも踏まえつつ、今すぐ力を入れるべき対応策について、特に重要と考える2点について、やや極論であることを承知の上で述べていきたい。
1.支援の対象のシフト:「未婚の若年世代」を全面的に支援せよ
第一は、政府による政策支援を、「(未婚の)若年世代」向けに思い切って舵を切ることである。これまでの少子化対策の多くは、「既に結婚もしており、子どもを持ち始めている人々」への経済的・社会的支援が中心であった。もちろん、こうした施策は重要である。しかし、現在の日本が抱える真の課題は、「結婚や出産を望みながらも、経済的不安や不安定な就労環境ゆえに、その一歩を踏み出せない未婚の人が沢山存在すること」にある。
「若年世代」は、既に数も減ってしまっており、遅まきながらという印象はある。それでも、以下のような思い切った「バラマキ」をしていくべきであろう。
まず、(1)20~30代が結婚したら、「結婚祝い金」として、夫婦に月々10万円ずつ数年間にわたり給付する。日本は、とにかく結婚しないと子供をもたない社会である(妊娠していることが分かったら結婚する、というケースも少なくない)ので、まずは、「結婚に踏み切ること」を明示的に奨励する。その他の制度的支援の充実策をここに含めてもよい。
独身税と言われても何と言われても、人口減少を食い止めることを目的とした極端な支援策を行うのである。新型コロナの時の偽装申告と同様、偽装結婚も出てくるであろうが、それにひるんではいけない。

また、(2)出産については、20~30代で、一人目の子供を持った夫婦には、やはり月々10万円を、二人目は月々20万円(子供が二人いれば計30万円!)、三人目は月々30万円(計60万円!!)を、数年間に亘り給付するのである。
これまでの子供家庭庁による支援策や、現在議論されている出産無償化をはるかに凌駕する規模で行う、明々白々な経済的支援である。
(1)(2)は、消費税減税やガソリン補助金のようなバラマキではない。「お金」も「時間」もなくて、結婚や出産に踏み切れないでいる若年層を明確にターゲットとした「バラマキ」である。マクロとしての人口減少が「明らかな有事」である以上、これを食い止めるためには、相応の規模の財政投入を行う必要がある。そうと覚悟して、早期に実施すべきである。ここまで思い切ったことをすれば、社会のムードも変わるであろう。

無論、個々人の人生選択の自由を尊重するのは当然で、結婚・出産を強制するものではない。同世代の中で、独身を貫く人が相当数いてよいが、そうした中で、その世代全体として、その子供世代が似た人口規模を維持できるようにするには、沢山の子供をもつ人々が増えるような政策対応を進める必要があるのである。

2. 地方行政サービスの効率化:政府は自治体の広域連携だけを支援せよ
第二は、人口が継続的に減少する中で行政サービスを維持するための、自治体の行動変容の後押しである。人口減少社会が進めば進むほど、私企業は、市場縮小・労働力不足に対応して、合併・提携等を含めた自己改革を積極化するであろう。企業向けには、ある程度の政策対応は必要であるが、基本的には市場原理が働き、収まるところに収まるはずである。一方、行政ではそうした自己改革力が圧倒的に弱いため、非効率なかたちで組織が残りやすい。
今後、一段と疲弊することが不可避な自治体において、行政サービスを維持するための現実的な答えは、「広域連携」の徹底であろう(このほか、DX化等も重要施策となる)。ヒト・モノ・カネが不足する以上は、インフラ整備はもちろんのこと、圏域を広くとらえて、医療、介護、教育などに関する行政サービスを、市町村という枠を超えて維持・統合していくしかない。
自治体の合併を進めるには、膨大な政治的エネルギーが必要となる。組織の効率化は、平成の大合併だけでは十分に進まなかったが、特に、ここ10年を振り返ると、「消滅自治体」を回避すべく、個々の市町村は、自己の存続にむしろ固執してしまった。

ならば、行政組織の統合には拘泥せずに、あらゆる分野で自治体同士が連携していくことを、政府としては思い切って後押しすべきである。例えば、そういう広域連携・行政効率化を進めた自治体に対して、優先的に財源が配分されるように、地方交付税交付金等で明白なインセンティブを付けていくべきである。
わが国は、極論すれば、法制度的には地方自治が貫徹されているが、なけなしの財源の方は国が握っている。こうしたことから、そうした財源の力をもってすれば、自治体の行動変容を促すことは可能である。
***
人口減少が「明らかな有事」であることは、いくら大げさに言っても言いすぎることはない。国民も、今回の国勢調査の衝撃的な数字を、自分ごととしてとらえ、日本再生へと舵を切るための最後にして最大の警鐘としなければならない。



コメント