水道管の老朽化~日本社会課題の縮図(コラム#049)
- 竹本 治

- 8月31日
- 読了時間: 4分
水道管の老朽化が社会問題となっているが、関係者が必要な情報提供を怠り、住民も当事者意識をもってこなかったところに、抜本的な原因があるといえる。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)
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日本語には、「湯水のように使う」という言い方があるが、世界でも有数の安全な水道水を供給する水道インフラが深刻な状況にある。以下では、水道管の老朽化の課題とその原因、そして今後の対応について、ごくごく簡単に整理してみたい。
(1) 水道管老朽化の現状
水道管の老朽化は急速に進展しており、法定耐用年数である40年を超過した水道管の割合を示す「管路経年化率」は、現在は3割近くにまで上がっている。
年間で発生する破損事故は大小合わせれば2万件以上にのぼっており、住民生活に深刻な影響を及ぼしている。
例えば、今年1月には埼玉県八潮市の道路陥没事故があったことは、記憶に新しい。下水道管の老朽化で道路が陥没したものであったが、走行中のトラックが転落し、運転手が死亡したばかりでなく、周辺住民約120万人に下水道の使用自粛が要請される事態となった。その後も、4月には京都市で老朽化した水道管が破裂して、国道が冠水し、大規模な断水が発生した。また、5月には、長崎市でも水道管が破損し、道路が陥没するなど、水道管の老朽化を巡るニュースには事欠かない。
(2)水道管老朽化問題の課題と原因
水道管の老朽化がこれほど深刻化している背景には、複数の複雑な要因が絡み合っている。主な原因は以下のように整理できるであろう。
• 高度経済成長期に集中的に敷設された管路の耐用年数超過
• 低い更新率と耐震化の遅れ
• 財政的な制約(注)と資金調達の困難さ
• 職員数の減少と高齢化
• 維持管理の不足
(注)水道事業は基本的に水道料金に依存する「独立採算制」で運営されており、人口減少や節水意識の浸透による水使用量の減少が、水道料金収入の落ち込みを招いている。
(3)持続可能な未来に向けた今後の対策
このように、水道管の老朽化問題は、多岐にわたる課題が複合的に絡み合っている。解決には戦略的かつ包括的な対策が不可欠であるが、既に、具体的な対策としては、下記の通り、様々なアイディアが出されている。これらの対策について本稿では詳細には触れないが、スピード感は十分ではないが実行されつつはある。
・アセットマネジメントの導入による効率的な管理
・広域連携・官民連携による経営基盤の強化
・デジタル技術を活用した維持管理の高度化
・人材育成と財源確保の継続的な取り組み
こうした中、今回の老朽化がここまで深刻化した原因を考えると、対策の出発点は、むしろもっと根深いところにあるように思う。その点のみ指摘したい。
根本的には、住民が水道というインフラ整備の重要性について、当事者意識をもってこなかった点に原因がある。換言すれば、運営主体は、住民に対して水道管老朽化の現状を正しく伝え、その維持更新にどの程度費用が掛かっているかを明確にすることを十分に行ってこなかった。
水道インフラの維持・更新には多大なコストがかかる。その財源の多くは水道料金に依存している。したがって、維持更新に必要十分な額が毎年徴収され、計画的に補修等に充てられてさえいれば、このような事態は避けられたはずなのである。ところが、対応が後手に回った。これは、関係者が、減価償却的なセンスを持ち合わせず、また、目先の費用の増加(住民負担増)を避けようとしたためであるといえる。
社会インフラについては、どれも同じ図式があてはまる。将来世代に莫大な負担を残さないためにも、運営主体が、計画的な対応の必要性を住民に正しく伝え、税金の使い道について、住民の理解と協力を得ていくことが不可欠である。自治体は、広報や説明会を通じて、将来のインフラニーズの見通しを「見える化」し、なぜ費用が必要なのか、どんなリスクがあるのかを丁寧に説明することが求められる。一方、住民も、「行政サービスはただではない」という基本的な事実にきちんと向き合って、監視すべきところはしつつも、拠出すべきところは、きちんと拠出するという姿勢が重要となる。
社会インフラ整備は、自治体など運営主体が自動的に行ってくれるものではない。住民一人ひとりが当事者意識をもつことが鍵となる。水道管の老朽化問題は、日本の社会課題の縮図だといえる。



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