女性総理大臣と地方の長男坊~人生の選択肢 Your Choice Project(コラム#052)
- 竹本 治

- 11月29日
- 読了時間: 3分
「Your Choice Project」という団体では、地方出身の女子高校生が、生まれ育った地域や社会・経済要因によって、首都圏進学などの人生の選択肢が著しく狭められてしまうことのないように支援しているが、誰しも「自分らしい選択」が出来るような制約の少ない社会を作るべく、努力を続けていくことが重要である。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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日本でも、ついに初の女性総理大臣が誕生した。ニュースをみながら、「女性初」ということが思いのほか話題になっていないことに気づいたが、それは、ジェンダーという観点だけで人物を評価する視線が薄らいできている傍証かもしれない。「女性が〇〇になること」が特別視されず、当然の結果として社会が受け止め始めているとすれば、それは日本社会の成熟の一つの表れである。
しかし、国際的に見れば、日本のジェンダー・ギャップ指数は依然として相当低い。政治・経済分野の女性比率の低さはもちろん、社会の無意識のバイアスや慣習の壁は今なお根強い。この現実を踏まえると、日本が本当に変わったとはとても言えない。

例えば、地方に暮らす女子高生が、首都圏の難関大学進学を目指すとき、経済的・社会的・心理的なハードルは決して低くはない。生まれ育った地域や家庭環境、性別によって将来の選択肢が狭められてしまう現象は、今なお各地で続いている。
その現状を変えようと、自分の意思で進路を選択できる社会を目指し活動する団体がある。「Your Choice Project」(YCP)である。YCPの取組みは、目の前の若者一人ひとりが可能性を拡張できるよう支援する、地道でありながら重要な挑戦である。共同創業者たちは、『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』という書籍を昨年出したが、その活動は徐々に注目を集めている。つい先日、大学のサークルの後輩がYCPに参加していることを自分も知ることとなり、微力ながらこのプロジェクトを支援している。

また、見渡せば、地方出身者の首都圏進学や就職をめぐる制約は、実は男性でも存在している。自分も、大学受験の頃を振り返れば、東京に出てくることはやはり大きな挑戦であった。経済的な不安、家族や地元を離れる心理的な抵抗など、そうした要因が折り重なり、進路の選択は簡単ではなかった(注)。
(注)自分の背中を押してくれたのは、中学時代の恩師の森岡完介先生である。先生は、美術の教師として多忙な毎日を送りながら、睡眠時間を削って数多くの版画作品を黙々と作成し、無名の頃から、銀座で個展を継続的に開いておられた。そんな先生が、「君も東京に行ってチャレンジしてこい!」と仰ったことで、自分の人生は拓けた。森岡先生は、今や世界的に活躍される大版画家でいらっしゃる。師の背中はいつまでも大きい。

また、たとえ大学時代に首都圏へと進学したとしても、地元に戻り、親元で就職するケースは少なくない。特に長男であれば、「家を継ぐもの」「親を支えるもの」という両親の暗黙の期待や、地域社会の目線が背中に重くのしかかり、「遠くには行けない」という心理がより強く働くかもしれない。
「自分の意思で進路を決める」ことは、言うほど簡単なことではない。地方に育つ女性や、長男坊ばかりでなく、個人の意思決定には、様々な社会・経済的な要因、家庭環境が、大きく影響を与えている。それらの要因や環境は、全否定されるべきものではもちろんない。さはさりながら、各人が「自分らしい選択」が出来るだけの、制約の少ない社会ではあってほしい。

生まれ持った才能や個々人の持つ思いを最大限に活かせるよう、教育機会や就労環境を整えることは、理想論と言われるかもしれない。しかし、その理想に一歩でも近づける努力こそが、社会を前へと進める原動力である。自分自身もまた、誰かの選択肢をそっと押し広げる存在でありたいと思う。




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