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「善意」はガバナンスの代わりにはならない—赤い羽根共同募金の使途不明金問題から考える(コラム#062)

10月5日
読了時間: 4分

10月から赤い羽根共同募金が始まったが、北海道で過日発覚した巨額の使途不明金問題は、善意で成り立つ募金の信用を揺るがし、地域福祉へも深刻な影を落としている。不祥事の本質は個人の不正にとどまらず、「善意」に甘えてチェック機能を怠った、組織における「ガバナンスの不在」にある。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)



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10月に入り、全国で一斉に「赤い羽根共同募金」の運動が始まった。街頭や学校、地域社会で長年にわたり親しまれてきたこの募金活動は、戦後日本の民間福祉や草の根の地域支援を支える重要な仕組みとして定着してきた。しかし、今年度の運動は、冷ややかで厳しい逆風の中でスタートを切ったのではないか。


今年6月に、赤い羽根募金の運営主体の一つである、北海道共同募金会で巨額の使途不明金問題が発覚した。報道によれば、会計責任者を務めていた元事務局長による着服等があり、使途不明金は2億5000万円規模にまで拡大している。偽造議事録による多額の不正借り入れを、長年にわたり繰り返していたとされる。


これは単なる一団体の内部における会計トラブルや一職員の横領事件にとどまるものではない。見返りを求めず「困っている誰かを助けたい」という人々の純粋な利他心と信用によって成り立ってきた「善意のインフラ」そのものを、根底から揺るがす極めて深刻な事態である。



元事務局長本人の法的責任が非常に大きいことは議論の余地がない。しかし、この不祥事の根本的な原因を個人攻撃だけに求めていては、本質を見誤ることになる。真の要因は、長年にわたり「良いことをしている公益組織」「歴史のある善意の団体」という空気に甘え、基本的な内部統制を放置してきた「ガバナンスの不在」にほかならない。


件の組織では、寄付金の管理、出金承認、通帳と印鑑の保持といった重要な財務権限が特定の一人に永年に亘り集中していたとされる。これによって、金銭を管理する役割とそれをチェックする役割を分ける「職務分掌」が完全に不全に陥っていたのである。外部の税務査察という強制調査が入るまで、内部監査や理事会が長期間にわたり不正を見抜けなかった点を見ても、組織のチェック機能は、形骸化していたどころか、全くなかったと言わざるを得ない。



どんな規模や目的の組織であれ、金銭を管理する役割と、それをチェックする役割は、分けるのが大原則である。これほどの伝統ある大組織であるにも拘わらず、そうした基本的なことがまったく出来ていなかったのは、驚くべきことである。


通常の組織では、監査人・株主のチェックや監督官庁の指導が入ることでガバナンスが担保されるが、募金活動においては、寄付をする一般市民は資金の使途や管理方法を直接監視・精査することは通常はできず、全面的に組織側に託さざるを得ない構造にある。そうした信頼を裏切り、託された浄財を消失・私的流用させた組織側の罪は、通常の不祥事以上に極めて重いと言える。



そして、この不祥事が社会に与えた打撃は甚大である。市民の間では「自分のお金が本当に正しく使われているのか」という強い不信感と躊躇が広がり、街頭募金ボランティア数が激減するなど、協力の輪が縮小することになる。また、「改善策が明確になるまで募金を取りやめる」といった判断を下す地域もみられている。


こうした事態の一番の被害者は、支援を実際に必要としている人々である。募金活動という社会の善意を循環させる機能が弱まると、子ども食堂、高齢者見守り、障害者支援施設といった、日々草の根で福祉活動を実践し支援を必要としている人々や現場に対し、助成金の削減や配分遅延という実害が直接及んでしまう。憂うべきことである。



なお、こうした「ガバナンス不在」の問題は、町内会・同窓会・PTA・サークルなど、様々な任意団体でも十分に起こりうることである。


身近な任意団体ほど、「仲の良い知り合いだから」「長年引き受けてくれているベテランだから」「善意で集まった仲間だから」といった理由から、会計業務や資金管理等を特定の人物に丸投げしがちになる。「まさかあの人が、組織に害を及ぼすはずがない」という性善説に甘え、金銭の流れの相互監視を怠ると、どのような組織であっても不正の温床が生じる危険性がある。今回の事件のような完全な不正に至らなくても、組織の資金を思うように扱える立場になると、使い方に甘えが出て、そして独善的になる。そこから組織の「私物化」が始まるのである。



だからこそ、そうした任意団体や市民組織の関係者は、精一杯、相互チェックを働かせることが必要となる。複数人での出金確認、通帳と印鑑の分離管理、定期的な会計報告と現物照合といった相互チェック体制を確立することは、「人を疑う」ためではなく「大切な仲間と組織の信用を守る」ために必要である。組織を、不祥事や一部関係者による私物化から防ぎ、社会の信頼を維持するための唯一の盾となるのである。

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